自発的には育むことのできない「しつけ」、どうしていますか?

うちの家では、猫を飼っているのですが、猫は「ガリガリ」と爪を立てて扉を開けて外へ出ていきます(そのせいで扉はキズだらけです……)。当たり前ですが、扉を閉めてくれたことは一度もありません。

よく子育て本に「子どもの自発性を育む」という理念が謳われています。当子ども園もこれを保育方針に掲げています。しかし、改めて考えるとこの理念だけでは不完全です。自発的に育むことができる行為と、自発的に育むことのできない行為があるからです。興味のあるおもちゃを箱から取り出すのは自発的に行うことができます。遊ぶために必要なことですから、子どもは教えなくても習得します。しかし「片づけ」については、どうでしょうか? 先ほどの「扉を閉める」もそうですが、これは「しつけ」として教えていかないと身につきません。

「片づける」、「扉を閉める」の他にも、「手を洗う」、「自分の持ち物をしまう」など、小さい頃から「しつけ」として教えなくてはならないことはたくさんあります。「しつけ」とは、社会のルールやマナー、価値観などを自分の中に取り入れて定着させることです。

「しつけ」を定着させるには、専門的には大きく分けて二つの方法があると言われています。一つは「ほめる」という方法で、その行動に対して積極的に取り組めるように意欲を強めることです。もう一つは「注意する」「指示する」「叱る」という方法で、その行動に対して自分からやろうとする意欲を弱めることです。

さて、うちの子ども園では前者のやり方で、あたかも子どもが「自発的に行っているかのように」先生たちが導いています。子どもがその行動を積極的に取り組めるように、働きかけをしています。例えば2歳児のにじ組では、自分の着替えをたたんだりしてこれを汚れ物袋に自分で入れています。おもちゃの片付けも、どこに何をしまったらよいのかを考えながら、自分たちで片づけをしている姿があります。一番小さいしずく組でさえも、ハイハイができるようになると、自分で汚したスタイ(よだれかけ)を汚れ物袋まで先生と一緒に「片づけ」に行きます。もしかしたらお家ではなかなか見られない姿かもしれません。

ここには子ども園ならではの工夫が隠されています。

それは一つには子どもたちが集団で生活していることです。子どもは赤ちゃんの頃から、お友だちのやっていることは自分もマネをしてやりたいのです。この模倣するという特性(注)を生かし、他の子どもたちと一緒に「片づけ」をしたり、着替えを汚れ物袋に入れたりするのです。

その都度先生に励まされ、感覚としては「自分で行っている」わけですから、できたことで達成感を感じることができます。

もう一つは、毎日の生活の流れを大切にしていることです。あそびの後には「片づけ」があり、食事の後には「着替え」があり…というように、子ども園での生活の流れは、毎日同じ(天候にも季節にも左右されません!)で、時間帯もそれほど変わりません。つまり本来自発的には学ぶことのできない「しつけ」の部分を、毎日の生活のなかに組み込み、習慣として定着させることを大切にしているのです。
ご家庭でも、例えば自分が食べた食器は洗い場(シンク)まで持っていくことを習慣として定着させてみてはいかがでしょうか。もちろん子どもがマネできるように、大人がまず率先して行うことが大切になりますが。
(注)「人間を他のあらゆる動物と根本的に区別するものは、しばしばその栄誉を冠されがちな言語ではなく、模倣する能力である」(スーザン・ブラックモア)

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