仕事でいろいろな保育園・幼稚園を見に行く機会があります。他の園でしばしば見られるのは、小学校以降に学ぶ内容を先取りして教えようとしている光景です。
例えば、逆上がりの練習をしている子どもたちを見かけます。先生が鉄棒のそばに立ち、子どもたちが逆上がりできるように手助けしています。小学校の授業のように、子どもたちは長時間並んで待つことがあります。また、英語のアルファベットや単語を教えている場面や、文字の読み書きや足し算・引き算を教えている保育園もあります。
こうした「先取り教育」についての私の考えとしては、「乳幼児期にはそれよりも大事なことがある」というものです。
認定こども園や保育園、幼稚園には、乳幼児教育の方針を示すガイドラインがあります。その中で、小学校に行く前の乳幼児期は「学びの芽生え」を育む時期と位置づけられています。
乳幼児期の教育では、先取り教育のような「何かができるようになる」ことよりも、子どもたちが活動を楽しんで、継続できるようにすることが大切なのです。たとえば、運動の場面では、体を動かす楽しさを感じること、新しいことに挑戦する体験を積むこと、友達と協力して遊ぶ楽しさを大切にしています。競争や特定のスキルの向上を目指すことは目的ではありません。子どもたちが楽しみながら成長することが大切です。
また、「楽しむ・継続する」ことと同じく重要なのが、日常体験を通じていろいろなことを理解していくことです。算数や国語の勉強も、小学校に進む前に、幼少期の基本的な理解が大事です。算数では数と量の概念を学び、そこに小学校以降、筆算などの知識が加わってきます。国語では話すこと、聞くこと、読むこと、伝えることといった基本的な体験が、言葉の理解へとつながり、読解力を育むのに役立ちます。つまり、小学校の勉強を始める前に、遊びや日常生活を通じて学ぶことが、学力の基盤を築くことになるのです。
例えば……今、子ども園ではダジャレやなぞなぞが人気で、子どもたちが楽しんでいます。「部屋をきれいにする木は?→そうじき、ほうき」、「部屋をきれいにする鳥は?→ちりとり」、「日本にしかないパンは?→ジャパン」といった問題を考えたり答えたりしています。これは言葉の意味や音を理解する高度な言葉遊びで、言葉の楽しさを発見する手助けとなります。
数と量の理解についても、体験が大切です。0歳児では色の違うボールを穴に入れる遊びや、数種類なおもちゃで遊ぶことから始まります。幼児期にはカードゲームやオセロ、すごろく、折り紙、食事の量や食器の数、ケーキを均等に分けることなど、数量に関する体験が広がります。これらの体験が、数や計算の理解を深めるのに役立ちます。数や量の感覚を豊かにするのに、早くから足し算を覚えることは、重要なことではありません。
乳幼児期は、学校教育が始まる前の大切な時期で、まさに「学びの芽生え」の時期と言えます。この時期は、子どもの興味を広げたり、友達と一緒に楽しい体験をしたり、自分自身の楽しみを見つけたりすることが大切です。小学校以降の教育では、この乳幼児期に培った好奇心や興味を活かし、これを土台にし、体系的な学びへとつなげていくのです。
(園長 福島正晃)