うちの園の理念は「自立と貢献」です。乳幼児教育で大事になっていることは、小学校教育の先取りでもないし、何かをできるようにさせることでもありません。むしろ、自分で考えて行動したり、子どもの好奇心や興味を伸ばしたり、友だちと折り合いをつけたりする等の方が格段に重要です。特に「自立」は、乳幼児期に限らず生きていく中でとても大切なことです。今回はこのことについてお話します。
子どもの「自立」とは、日常のさまざまな課題や選択を自分で判断し、行動に移す力のことです。「自分で」でというのは「自分一人で」ではありません。
以前、脳性まひの障がいをもつ小児科医の熊谷晋一郎先生のお話を聴く機会がありました。熊谷先生が、「自立」とは「依存先」をどれだけ多く持っているかということを話しておられました。例えば2011年の震災の時にビルから避難する際、車いすの熊谷先生はエレベーターにしか「依存」できなかったために、自立的な行動ができなかったと言います。エレベーター以外の階段に頼ることができたなら、自立的な行動が可能だった、と話していました。熊谷先生自身は、幸い仲間に助けられた(他の依存先があった)おかげで、避難できたそうです。ここで話されていたことは、依存先が少ないと、いくら自分の力で考えて判断しても、行動に制限がかかってしまうということでした。
普通は「自立」と「依存」は反対のことばですが、「依存できる選択肢が多い」ことが「自立した行動」が促されるという考えに、非常に感銘を受けましたし、共感しました。
先日幼児の部屋を僕が歩いていると、3歳児のEちゃんが近寄ってきて「園長先生、ここ手伝って!」と言ってきました。着替えていたのですが、腕が袖に引っかかりうまく抜けないようなのです。僕が「どうしたらいい?」と聞くと、「ここを引っ張って!」と袖の引っ張る場所を教えてくれました。3歳でも「自分で考えて行動できる」姿勢に、嬉しくなりました。自分だけではできないことを、担任でもない園長に頼って(依存して)解決しようとする姿勢は、立派な自立した行動です。しかもEちゃんはその後、「私が大きくなったから、服が小さいの」と話していました。自分の身体が大きくなっていること、そしてそのために服が小さくなっていること、そうした因果関係も理解していることに感心しました。
安心して頼れる先生が担任はもちろんのこと、他にも多く存在することが大事だと考えています。また同様に園の内外に子どもの遊びのコーナーがあり、自分の判断で遊べる場所が多くあるのも大切です。頼れる場所や人が多くあることこそ、子どもの自立や創造的な活動は促されるのです。
「自立」とは、「自分一人で」ではありませんし、「孤立」や「独立」とも異なります。頼れる先が多くある環境づくりが、子どもの「自立」を促すカギになるのです。
(園長 福島 正晃)