うちの子ども園では、子どもたちが自分で食べたい量を申告して、食事を受け取る「セミバイキング方式」をとっています。
セミバイキング方式とは、子どもが食べられる量を自分で決められるということです。
具体的には、配膳する先生から「○○くん、これ、どのくらい食べられる?」と聞かれ、子どもが「いっぱい」とか「少し」とか自分の食べられる量を伝えて、よそってもらいます。なぜこうした食事のやり方をしているのでしょうか。
ご自身の幼稚園・保育園や小学校のころを思い出してみてください。食事の全部が食べきれずに、自分だけ残された…‥そんな体験をした方はいませんか?(ちなみに僕は小さい頃からあまり好き嫌いはなかったため、クラスでしばしば残される友だちから、牛乳やその他苦手なものをよくもらっていましたが)。
こうした体験は、子ども時代に本当に必要なのでしょうか?残されたことによって、次回は食べきることができるようになったでしょうか。おそらくそうはならなかったでしょう。なぜならそこには、残された子ども自身の思いが考慮されていないからです。
当事者の子どもにも「こんな多い量は食べられないよ」、「嫌いなものは少なくして!」といった思いがあるのです。個人差を一切考慮せずに、みんなと同じものを「全部食べなさい」というのは、いささか乱暴な気がします。
そこでうちの園では、セミバイキング方式を取り入れています。大切なのは、「自分のことは、自分で考えて判断して決める」ことであり、食事においてもこの方針を大切にしたいのです。次の視点を大事にしています。
- 自分の好きなものや苦手なもの、また食べられる分量を伝える(自分で決める)ことで、少なくとも毎日1回は自分の意思を伝える機会がある。
また、そこで自分の意思が尊重される経験を得る。 - 好きなものは「いっぱい」、苦手なものは「少し」と伝えることを通して、子どもが自ら好き嫌いを知る。
- 嫌いな食材やメニューだったとしても、少量を食べきることで成功体験を得る。
- 自分自身の食べられる分量をちょっとずつ知っていく。
- 自分で他者に伝えた分量である以上、責任をもって全部食べ切ろうとする。
保育園給食は大量調理ですので、もちろんみんなと同じメニューの食事を食べます。しかし、よそってもらう分量や食べる時間、お替わりなど、本人の希望に応じてカスタマイズされることは、子どもたちの「自立」に大きな影響を与えます。実際にうちの園では、自分で好き嫌いや分量を選んだからこそ、最後まで食べようする子どもが多いと感じます。
また保育者も最後まで食べきる姿勢を応援するようにしています。自分の気持ちや選択が尊重されたことによって、食事をただひとから与えられたものではなく、「自分ごと」として捉え、向き合えるようになるのです。
逆にいうと、大人から「やってもらう」、「与えられる」ことに慣れてしまった子どもは、物事を「自分ごと」として捉えられなくなってしまうでしょう。靴を履くのも、服を脱ぐのも、食事を食べるのも、誰かが「やってくれる」ことを期待するようになり、どこか「自分ごと」ではなくなってしまうのです。
食事にそこまで大げさな!?と思われるかもしれませんが、食事の方法ひとつとっても、このように園の保育の考え方があらわれてくるのです。
大切なのは、大人が「やってあげる」のではなく、子どもの意思や選択を尊重し、そこに子どもを参加させることです。「自分ごと」として捉えていく子どもを育ててるには、子どもの成長段階に応じて、大人が「いかに手を放していくのか」という視点が不可欠なのです。
(園長 福島正晃)