先日、テレビの取材を受けて、不適切な保育が起こらないためにどんなことが必要なのかをお話しさせていただきました。テレビ放映では、ほんの一部だけの放映だったので、そもそもどんなことが大事なのかを改めて説明しようと思いました。
大切なのは、子どもを権利の主体(一人の人間)としてとらえているかどうか、ということに尽きます。子どもを私たち大人と同じように扱うならば、説得の手段として暴力や威嚇は使わないはずです。
ただかなり最近まで小中高では体罰が当たり前の時代がありました。おそらく若い人を含めて、小さい頃から言い聞かせる手段として暴力や威嚇、怒鳴りつけなどを体験してきた人は、子どもにも同じことを無自覚に繰り返してしまう可能性があります。
小中高の学校の世界では、体罰がたびたび問題になり、それが発覚すれば懲戒免職なのでしょうが、保育園や幼稚園のような施設の場合、管理者の価値観によっていることが多いと思われます。
例えばしつけと称して、押し入れに閉じ込めたり、お尻をたたいたり、大きな声で指示したりなど、小さい子にとっては相当な恐怖だったとしても、先ほど言ったように園長や主任が育ってきた環境がそうだとすると、そうした行為に疑問を持たなくなります。
特に保育歴の長いベテランの保育者が、子どもは「○○すれば(大人の)言うこと聞くのよ」とか言って、大きな声で怒鳴ったり、尻をたたいたりすることが日常化してしまうと、周りの職員は何も言えなくなります。
子どもの権利を尊重するということは、子どもが恐怖を覚えるということをしつけのやり方としてやってはいけないということです。暴力や威嚇、怒鳴りつけなど、それは恐怖を与えることです。これをいかにおだやかに冷静に子どもに伝えられるか、そこに保育士の専門性があります。
私はすべての園において、子どもの権利尊重を基本において経営し、そして保育現場では、子どもの権利の尊重をすすめてほしいと思います。また他の人の権利を尊重していける態度を育成してほしい。一方で、子どもの権利侵害に対しては、機敏かつ柔軟に介入する仕組みをつくってほしいです。
こうした専門性を園の当たり前の文化にしていくには、繰り返しになりますが「保育士が余裕をもって保育にのぞめる体制と、保育士を応援する環境をつくっていく」ことです。
そして園だけの取り組みではなく、社会の中で、子どもの権利とウェルビーイングの尊重を乳幼児教育の育成と一体的に進めていくことこそが、子どもの今の幸せを確保し、今の充実から将来の幸せと生きがいへとつながっていくと考えています。
そして上記で言ったこと以上に大事なことは、園について外部からの視点に基づき、監修する仕組みをつくることです。質の高い乳幼児教育を推進していくためには、国や行政による外部的な監修・介入が必要だと考えています。
現在、保育園・幼稚園・認定子ども園、園種の枠を越え、共通の指針や要領があります。そこには、子どもの権利尊重や子どもが主体的に活動することの大切さが説かれています。
公的な費用で運営されている園は、自治体による指導監査が毎年実施されたり、東京都では第三者評価制度があったりもしますが、指針や要領を遵守した保育実践であるかどうかを細かくチェックされるわけではありません。
現行の保育制度では、園生活の中で子どもが自発的に活動しているか、夢中で遊ぶ環境があるか、安心して生活しているかなど、指針や要領で大事にされている視点を評価する仕組みはありません。
こうした点を国や自治体、行政が見直していかない限り、今回のような事件はなくならないと思います。理想的には、こうした園の評価を数値化し、数値に応じた補助金制度をつくっていくことです。
園の保育の質や内容を補助金と紐づけることで、どの園も保育を見直し、その質を確保し向上させる仕組みをつくり、それを支えてチェックする体制が可能になると思われます。こうした制度を行政側がしっかり整備することを強く願います。
少し長くなりましたが、以上のようなことを今回のテレビの取材でお話ししました。
質の高い乳幼児教育を推し進め維持していくには、一つの園だけで問題を抱えるではなく、外部が介入して軌道修正が可能な仕組みづくりが必須であり、そうした仕組みづくりによって子どもの育ちが保障されるものと思われます。
(園長 福島正晃)