目に見える学力を下支えするのは?IQとEQのはなし

以前、脳の成長には知識の詰め込みではなくて、「考える力」「創造する力」「感情をコントロールする力」を育てていくことが大事で、そのために大切な環境とは……と、話をさせていただきました。今回はその続きで、なぜそうした力が今日大切と言われてきているのかを話したいと思います。

今まで子どもの将来に影響する能力として、知能指数(IQ)などに代表される賢さや頭の良さがメインに考えられてきました。実際に今でも小学校以降では、どのくらいテストで点数が取れたかという形で、到達度を測っていきます。テストで高得点をとる子が、いわゆる「頭の良い子」です。

しかし令和に入って、人間らしさとは何かという疑問が改めて突き付けられています。とりわけ深層学習(ディープラーニング)の発展を契機とした人工知能ブームによって、人間より「賢い」と思われるような人工知能が次々と登場しました。例えば将棋や囲碁でプロの棋士を打ち破ったり、医者よりも正確な診断をしたり、学力もいくつかの大学には合格したりする、そういった人工知能が登場してきたのです。このような中で、次世代を担う子どものどのような力を育むべきなのかが問われるようになってきました。

ここで注目されてきたのが、「非認知的能力」と呼ばれる能力です。2015年にOECD(経済協力開発機構)がこの「非認知的能力」を社会情動スキルと呼び、その中味を主に「目標達成」「他者との協働」「自分の感情を管理する能力」の3つに整理しました。つまり、テストの点数として表れる「目に見える学力」の背後には、それを下支えする「目に見えない資質・能力」があることに注目したのです。

また最近の研究では、小学校の勉強を先取りして無理に身につけさせるよりも、むしろこの「目に見えない資質・能力」を伸ばした方が、結果的に「目に見える学力」も将来にわたって伸びる傾向があることがわかってきました。
さてOECDでは、この3つの能力について次のように説明しています。

  1. 目標達成……目標を達成するための忍耐力や熱意、あれこれ工夫し試行錯誤しながらも最後までやり抜く力
  2. 他者との協働……仲間と力を合わせて同じ目的を達成しようとしたり、相手を思いやったりする力。
  3. 自分の感情を管理する能力……自尊心や自信、楽観的(長期間くよくよせずに、気持ちを切り替えられること)でいられる力。

乳幼児期に、1、2、3の力を育んでいくためには、子どもが長時間過ごす「環境」が大切です。例えば「目標達成」のためには、レゴやブロック、電車やままごとなどのように、子どもが「興味や関心」を持って取り組める環境がなくてはなりません。

あるいは「他者との協働」を実現するためには、子ども集団や異年齢の関わりが自然発生的にうまれる環境が必要です。さらに「自分の感情を管理する能力」を育むには、大人の励ましや子どもへの肯定的な関わりを意図して作っていかなくてはなりません。最近ではこうした力をEQ(Emotional Intelligence Quotient)といって「心の知能指数」と表現されたりもします。

子どもの存在を否定せずに、子どもの行動や言動を肯定的に受け止めてくれる大人の存在と、子ども同士が影響し刺激し合う環境が、子どもの育ちにとってはとても大切という結論になるようです。うちの園でも日々心がけているところです。

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