私には子どもが3人いますが、たしか長男がまだ2歳にもならない頃、コップに入っている水や牛乳をわざとこぼすことがありました。こぼした液体を手でびちゃびちゃと叩いたりして遊ぶことを覚えたようです。今から考えると、食卓のテーブルの上で液体が広がっていく様子がきっと楽しかったのでしょう。また親が慌てている様子もおもしろかったにちがいありません。
しかし当時はそんなふうに考える余裕はなく、むしろ「なんでこんなことをするのだろう?」と腹を立てていました。その上、親が叱った時に、長男が「ヘラヘラ笑っている」ことすらあり、つい感情的になって「ダメでしょ、まったく! どうしてこぼすの!」と叱っていた気がします。
長男は親の気持ちを理解せずに、むしろ親を小バカにしているかのように見えることすらありました。夫婦で働きながら子育てをしている真っ最中で、気持ちに余裕もなくついつい大声を出してしまっていたのです。
このような子どもの行動って、どう対応したらよいのでしょうか。
当時は一番最初の子どもということもあり、まだ職業として保育に関わっていなかったため、子どものこうした行動に対してよく理解できていませんでした。しかし、今ははっきりとわかります。
親が叱ったときに子どもがヘラヘラと笑うのは、親が慌てている姿がおもしろいからです。特に3歳ぐらいまでは、「コップの液体をこぼすと親が急いで自分のところへ来てくれる」ということを学んで、繰り返し行っているのです。こぼすたびに親が相手してくれるのですから、子どもにとっては嬉しくてたまりません。
この場合、「こぼしたら、ばっちいよ。きたないよ。ほらコップの中にもうないよ、飲めなくなっちゃうよ。」と穏やかに、しかも残念そうに伝えてあげましょう。ここで必要以上に大声を出したり、慌てたりすると、ますます子どもは楽しくなってしまいかねません。
ちなみにもっと4~5歳と大きくなってから「へらへら笑う」のは、少し意味が違ってきます。大人に叱られたり、怒られたりするのが本当は怖いのです。怖くて苦しいからこそ、そこから逃れて笑うことで自分の気持ちをごまかそうとします。
大人でも嫌われるのがこわい人は、笑みを浮かべていい人そうな表情をつくりがちです。笑顔で自分を守っているのです。この場合、「真剣にお話ししているから笑うのはおかしいよ」と伝えて、「やってはいけないことをどうして行ってしまったのか」を穏やな声で聴いてあげましょう。
この「穏やかな声で聴く」というのは、なかなか難しいのですが、とても大切です。大きな声や怒鳴り声では、いくら共感的であっても、子どもは怒られている気持ちになり、自分の思いを伝える気にはなれません。まず、子どもの行動の背後にある思いや理由を聴いてあげましょう。
例えば「ほしかったんだね」「やりたかったんだね」などを伝えます。そうした落ち着いた穏やかな声で言葉を発することで、子どもは安心感を持ち、自分の思いを相手に伝え、冷静に自分の行動を振り返り考えることができるようになってくるのです。私たちも心がけなくてはなりません。