「自分で着替えができた」「靴が履けた」「おもちゃを片づけられた」――子どもは成長とともに少しずつできることが増えていきます。その姿を見て、私たち大人は思わず「えらいね」「よくできたね」と声をかけてしまいます。いわゆる「褒める育児」です。褒めることは、子どもが自分を認められたと感じ、自信を持って行動できるようになる大切な関わり方です。大人に褒められることで、子どもは「自分はできる」という自己効力感を得て、前向きな行動が増えていきます。
確かに「褒めること」は、子どもの成長に良い影響を与える重要な方法の一つです。
しかし、実はそこに小さな落とし穴もあります。褒められることが子どもにとって“行動の目的”になってしまう場合があるのです。
例えば、部屋に落ちているゴミを見つけたとき、大人がそばにいると拾うのに、大人がいないと知らん顔をして通り過ぎてしまう、そんな場面を見たことはありませんか。あるいは、大人が見ていると張り切って片づけるのに、見ていないとやらないなど。保育園でも同じようなことがありました。
いつも掃除を頑張る子を「いい子ね」と褒めていたら、ある日、褒めてもらえなかったときに「わたし、いい子でしょ?」と自分から言ってきたのです。つまり、「褒められること」が目的になり、「誰かのために動く」「自分で気づいて行動する」という本来の目的が後回しになってしまっているのです。
このような状況を防ぐためには、私たち大人の言葉かけを少し工夫することが大切です。たとえば、靴を自分で履けたときに「えらいね」と言う代わりに、「自分で履けるようになって、お母さん(お父さん)はうれしいよ」と伝えてみます。自分から片づけてくれたときも、「いい子ね」ではなく「○○ちゃんが片づけてくれたから、お部屋がこんなにきれいになったね」と言葉をかけます。このように、子どもの行動を「評価」するのではなく、「あなたがしてくれたことでうれしい」「助かった」「ありがとう」と“気持ちの表明”や“感謝”を伝えます。
特にお手伝いや掃除など、人のためになる行動をしてくれたときには、「洗濯物をきれいに畳んでくれたから、着替えのときに気持ちがいいね。ありがとう」と、具体的な行動と感謝の気持ちをセットで伝えるようにします。そうすることで、子どもは「自分のしたことで誰かが喜んでくれた」「人の役に立てた」と感じるようになります。
その気持ちはやがて、「人のために行動することはうれしいことだ」「みんなで気持ちよく過ごすっていいな」という実感につながります。
このように、子どもは大人に認められる経験から出発して、少しずつ“人とつながる喜び”や“自分の存在が誰かの役に立つうれしさ”を学んでいきます。評価の言葉ではなく、感謝や喜びを伝えることで、子どもたちは「褒められたいから」ではなく「誰かのために」という思いで行動できるようになります。そしてそれが、やがて「自分はこの場所の大切な一員なんだ」という所属感や自己肯定感の土台となっていくのです。
褒めることはもちろん大切ですが、それ以上に、「あなたがいてくれてうれしい」「ありがとう」と伝える関わりを重ねていくこと、その積み重ねが、子どもの心を温かく育てていくのだと思います。