5月にフィンランドの保育園を視察する貴重な機会をいただきました。フィンランドといえば福祉大国であり、乳幼児教育にも力を入れている国として知られています。今回は、そんな北欧の教育・保育の根底にあるものに触れ、私たちがこれからの保育にどう活かしていけるかを深く考える機会となりました。
1.「子どもを中心に置く」という共通の想い
訪問した園は、美しい森の中にありました。まず現地で強く感じたのは、日本もフィンランドも「子どもの幸せと健やかな成長を最優先に考える」という点において、全く同じ熱い想いを持っているということです。子どもたちの無邪気な笑顔、保育者に甘える姿、そして保育者が温かい眼差しでそれを受け止める光景は、日本の園で見られる日常と何も変わりません。フィンランドの国家カリキュラムでも「豊かな表現」「社会性」「自然との交流」などが重視されており、日本の保育指針が目指す「生きる力の育成」と多くの共通点があります。根底にある哲学は深く通じ合っていると確信し、どこか大きな安心感を覚えました。
2.「個」の尊重と「自分で選ぶ」アプローチの違い
一方で、その理念を実践するアプローチの徹底ぶりには大きな感銘を受けました。最も印象的だったのは、徹底された「個」の尊重と「子ども自身の選択」の保障です。
フィンランドでは、子ども一人ひとりに保護者と協働で「早期教育計画(マイ・プラン)」が作成されます。集団のペースに合わせるのではなく、その子が今何に興味を持っているかを軸に一日の活動が組み立てられます。驚いたのは、「やりたくない活動には参加しなくてよい自由」が日常的に認められていることです。みんなで一斉に何かをする時間よりも、子どもが自分で選んだ遊びに没頭する時間が大半を占めていました。また、言葉が未発達な3歳未満のお子さんであっても、絵カードなどを使って「いま何がしたいか」「どんな気持ちか」という意思表示を大人が確認していました。子どもを一人の自律した人間として尊重している証拠です。
また、環境づくりにも違いが見られました。フィンランドでは乳幼児期を「社会の構成員になるための大切な時期」と位置付けており、園内の家具や手洗い場などは、小さい頃からあえてやや大きめに作られています。園庭にも大きな岩がそのまま残されているなど、リスクに対する考え方も日本とは異なります。「大人が環境を整えすぎず、子ども自身が工夫して社会や自然に適応していく力を育てる」という意図が、環境の端々から伝わってきました。
3.先回りせず、信じて「待つ」こと
現地のベテラン保育者が語ってくれた言葉が、今も私の心に深く残っています。
「私たちは、子どもたちの間で小さないざこざや困難があっても、大人がすぐに介入して解決することはしません。子どもたちが自分たちの力でどうにかしようとするのを、じっと見守ります。そして、子どもが本当に困って大人のところに助けを求めにやってきた時、その時初めて全力で話を聴き、一緒に考えます」
日本では、子どもを「守るべき未熟な存在」と捉える傾向が強く、トラブルが起きる前に大人が「先回り」して環境を整えたり、すぐに答えを出してしまったりすることが少なくありません。しかし、フィンランドの現場が教えてくれたのは、子どもが自ら状況を切り抜ける力を信じて「待つ」ことの大切さでした。
自分で選択し、時には失敗や葛藤を経験しながら、自分の力で立ち上がる。このプロセスの積み重ねこそが、本当の意味での「自律」と「自己管理能力」を育むのだと強く実感しました。
4.これからの私たちの保育に活かしたいこと
視察を経て、当園が培ってきた「大人と子ども、子どもと子どもとの関わりの中で協調性や思いやりを育む」という良さを大切にしつつも、これまで以上に子どもたち一人ひとりの「自分で選び、自分で決める時間」を保障していきたいと考えています。
大人が先回りして指示を出すのを今まで以上に控え、子どもたちの「やりたい」という自発的なエネルギーを尊重する。そんな心のゆとりと環境づくりを、職員一丸となって進めていきます。
家庭と園は、子どもを真ん中に置いた共同チームです。おうちでの生活でも、「あれしなさい、これしなさい」と言いたくなる気持ちをちょっとだけがまんして、「どうしたい?」と問いかけ、子どもが自ら動き出すのを待ってみてはいかがでしょうか。子どもの「育つ力」を信じて、共にゆっくりと見守っていきましょう。




