園生活で大切なのは“押し付け”ではなく、子どもとの対話

子どもの権利を尊重することは、子ども園のような子どもを預かる施設では、きわめて大事なことです。日本は、1989年に国連総会で採択された「子どもの権利条約」を1994年に批准しています。この条約は「子どもが一人の人間として基本的人権を持ち、行使できる」ことを保障するものです。その柱となるのが次の4つの権利です。

  1. 「生きる権利」命が守られ、健やかに成長する権利
  2. 「育つ権利」医療や教育、生活の支援を受け、遊びや学びを通して能力を伸ばす権利
  3. 「守られる権利」暴力・差別・搾取から守られる権利
  4. 「参加する権利」自分の意見を表明し、尊重される権利

日本国憲法でもすべての人が自由や幸福を追求する権利を持つとされていますが、子どももその例外ではありません。しかし近年「不適切保育」が社会問題として取り上げられる背景には、子どもの権利への理解が十分でない園もあるのかもしれません。大切なのは「大人にしないことは、子どもにも絶対にしない」という当たり前を徹底することです。例えば、赤ちゃんを許可なく抱き上げない、鼻水を拭くときにひと声かける、遊んでいるおもちゃを勝手に片付けない、あだ名や呼び捨てにしない、「○○しないと○○できない」と脅さない――こうした関わりの一つひとつが、子どもの権利を守ることにつながります。

「子どもの権利を尊重する」と話すと、「子どもの言うことを何でも聞かなくてはいけないの?」と問われることがありますが、そうではありません。子どもの要求を何でも聞いて、やりたいようにやらせるのは、単なるわがままを助長させるだけであり、「権利尊重」ではありません。誰かの権利、例えば一緒に住む大人やお友だちの権利や自由を侵害しない限りにおいて、本人の権利は尊重されるべきものなのです。

例えば、家族で19時15分に夕食を食べると決まっているのに、Aちゃん(5歳)がゲームをやめられない場合、「食べないならあげません」と言うのは権利侵害になります。大切なのは、「遅くなるとおかわりがなくなるよ」「片付けが自分ですることになるよ」など、遅れたことで起こる現実的な不都合を伝え、その上で本人に決めてもらうことです。「やりたい」「やりたくない」を判断する経験を積むことが、主体性や自己決定の力を育てます。

これは子ども園でも同じです。本人の意思や権利を尊重しながらも、周りのお友だちや大人の権利も同じように大切にされなくてはいけません。そのためには、大枠としてのルールは大人が作りますが、詳細なことまで大人が一方的にルール押し付けないことです。子どもには「参加する権利」があります。生活の中で「どうしたらみんなが気持ちよく過ごせるか」を、子どもと一緒に話し合いながら決めていくのです。

例えば、「遊びたいのに友だちに断られた」「使いたいおもちゃを他の子が使っている」など、子どもからすると解決が難しい場面に遭遇することでしょう。その時に、「どうしたらいいかな?」「どうしたらみんなが困らないかな?」と大人が問いかけることで、子どもは自分なりに考え、意見を語り始めます。そして友だちの意見を聞く中で「自分とは違う考えも大切なんだ」と気づいていきます。

こうした積み重ねは、自然と折り合いをつける力を育てていきます。みんなの人気のボールが一つしかない状況でも、「交代で使おう」「時間を決めて使おう」と子どもたちから解決策が生まれるようになります。これはまさに、民主主義の基礎となる経験です。

子どもの権利を守るとは、子どもの意見を大切にしながら、大人も友だちも尊重される環境をつくることです。命令でも強制でもなく、対話と理解による共同のルールづくりこそが、園の「当たり前」になっていくことを目指していくべきだと考えます。

大人にされて嫌なことは子どもにもしない。子どもの声を聞く。みんなで考え、話し合う。そして、互いの自由を尊重し合う――こうした積み重ねが、この子ども園という小さな社会に民主主義の土台を育てることにつながっていくのだと思います。