園長の保育雑談 8月◇「しずかちゃん」に学ぶ親子のコミュニケーション

私自身の話で恐縮ですが、私は幼少の頃から上級生や学校の先生が苦手でした。

保育園では押し入れに入れられて叱られたり、中学校では、威張っている先輩の理不尽な要求に従うことができず、喧嘩になってしまうこともしばしばでした。学校の先生に対しても、特に自分で納得のいかないことが許せずに、乱暴な言葉使いをしたり、授業の邪魔をしたり…ということもありました。

今から振り返ると、自分に不愉快なことを指摘されたときに、「相手に受け止めやすいように返す力」がなかったのだと思っています。自分の思い(怒り)ばかりが先だって、「相手がどういう気持ちで言っているか」とか「自分はどうして先生(上級生)に嫌なことをされるのか」といった、相手の気持ちや状況を理解する姿勢に欠けていました。

そうした経験からか私は、いつしか「相手の気持ちと自分の気持ちを何とか折り合いをつけて、物事をうまく進めるようになりたい」と考えるようになりました。自分の気持ちだけを相手に押し付けてもダメで、かといって相手の気持ちばかりに気を使ってもうまくいきません。対話を通して、他者と納得のいく落としどころを探っていくことが大切なのです。

さて前置きが長くなりましたが、子ども園の子どもたちにとっても相手と自分の気持ちをどう折り合いをつけ調整するのか、というのは非常に大きなテーマです。経験上大切なのは、次の視点だと考えます。

  • 自分と人とは違うと理解する
  • 自分の気持ちをコントロールすること
  • 対立した時にお互いが納得できる方法を学ぶ
  • 真っ向から相手を否定しない、相手の気持ちをわかろうとする

参考になるのが、「ドラえもん」に登場するしずかちゃんです。のび太君は劣等感が強く、自分で物事を決められないところがありますが、しずかちゃんは、自分の意見をはっきりと持ちながらも、相手を受け入れる力があるため、敵をつくりません。

例えば相手の誘いを断る時です。「一緒にあそぼう?」と誘われた時、まずは「楽しそう!」と言って肯定的な言葉を返します。その後に「でも今日はピアノの練習があるの」と自分の立場を表明します。誘った友達からすれば、断られて落胆はするけれど、不快にはなりません。

 

このしずかちゃんのコミュニケーションの肝は、「受け止めて返す」ところにあります。相手の気持ちを、いったんは肯定する、その後で自分の立場を表明するのです。これはしばしば心理学の事例等でも紹介される「アサーション(肯定)」という手法です。これは保育士の重要なスキルの一つでもありますし、子育てにも応用ができます

例えば子どもが泣いていてもすぐに対応できない場合、「○○が嫌だったのね」と一度受け止めた上で、「○○が終わったら話聞いてあげるね」と自分の状況を説明する。

 

あるいは子どもが駄々をこねて言うことを聞かない場合、「○○をしたいのね」と一度受け止めた上で、「でもママ(パパ)は、○○ができなくて困るの」と自分の立場を伝えていく。

こんなふうに大人に否定されない環境で育つと、子どもは他人の考えや立場を尊重できるようになると言われています。

異なる意見や立場をいったんOKと受け止め相手との対立を回避する。これは多様化する人間関係において理想的なコミュニケーションの仕方であり、非常に有用なスキルだと考えています。

今回話したことを少し参考にしていただければ、大人同士でも、親子でも、新たな人間関係が生まれる可能性があるのではないでしょうか。