子どもというのは、親から子どもに接して、話しかけたり、スキンシップをとったり、共感したりするなど色々な働きかけによって育っていきます。
しかし、親だけではなく、子どもの側も、生まれたときから親の愛情を引き出そうとしていることをご存じでしょうか。
例えば、生まれて2~3ヶ月ごろには、親の働きかけに対して微笑んだり声を出したりして答えます。8か月ぐらいになると、人見知りも始まり、ひたすら親を求めたり、特に教えなくても親のマネを始めたりするなど、子どもから働きかける様子が多くみられるようになります。
親はそんな子どもの様子を見て、「どうすれば子どもが喜ぶのか」、「どんなやり取りがうまくいくのか」、「気持ちを切り替えるにはどうしたらよいのか」など、子どもとの関わり方を試行錯誤しながら学んでいきます。子ども自身の働きかけが、親を親として育ててくれている側面があるのです。
保育者と子どもにも同じことが言えます。一日の保育の中では、遊びや生活全般のいろいろなところで、保育者は子どもが成長していくように働きかけています。しかし、子どもの言葉や行いから、保育者が新たに気づき、自らの姿勢を学び直すということも数多くあるのです。
ある保育者がAちゃんに自分の持ち物を片付けるように何度も言いましたが、その子は一向に動こうとしません。ところが年長の女の子が「○○ちゃん、一緒にやるよ」と言うと、Aちゃんはすっと動いて一緒に片付けていました。
保育者は、年長の女の子のやさしさに感心するとともに、「なんで私ではダメだったのかなぁ」と自分の言動を振り返りました。言い方が悪かったのかな、伝え方がわかりにくかったのかなど、子どもへの関わり方が一方的にならないように気をつけるきっかけになりました。
他にもこんな場面がありました。
あることで保育者に叱られたBくんが一言。「先生がそんなに怒ったら、僕も怒るよ」。自分ではそれほど怒ったつもりはないのに、Bくんには先生がひどく怒ったようにみえたのでしょう。
子どもの受け止め方にハッとし、子どもへの伝え方の難しさを改めて実感しました。
Cちゃんは砂場で遊んでいるときに、先生が「そろそろ片付けだよ」と伝えると、「勝手だなあ~」と一言…。保育者は、この言葉にドキッとさせられたようです。「勝手だなあ~」の背後には、「家だったらもっと遊べるのに」とか、「大人っていつも私たち(子ども)の都合は無視するよね」とか、「もっと私たちのことを大事にして! 私たちのことを考えて!」と言われたような気がしたそうです。
保育者も子どもとの日々の関わりから新たな気づきを得ています。子育てでは、親から子への一方的な働きかけよりも、「親と子の相互の交流」によって親も育っていく側面があります。同じように、保育者も子どもから「育てられている」面が多くあるのです。子どもの言葉や行いを真摯に受け止め、これを学びの糧にする姿勢を心がけ、保育にあたっていきたいと思っています。