保育園や子ども園の先生たちは、日々子どもたちのことを深く理解しようと努めています。当園の1歳児クラスの年間目標にも「一人ひとりの子どもに寄り添い、欲求を十分に受け止め…」とあるように、子どもの思いに寄り添うことは、保育の醍醐味であり、子ども理解の第一歩と言えるでしょう。
しかし、「子どもの思いに寄り添う」というのは、言葉で言うほど簡単ではありません。「わぁーん!!」と激しく泣き叫ぶ子どもを目の前にして、ベテランの保育者でも、その子の本当の気持ちや願いを瞬時に理解することは難しいものです。子育てに関する相談でも、「子どもがなぜ泣いているのか、理由がわからない」という悩みが尽きないことからもわかるように、子どもの心に寄り添うことは、そう単純なことではないのです。
園でも、このような状況にしばしば直面します。そんな時、私たちは子どもたちの思いや願いを探るために、あの手この手を使って関わっていきます。例えば、外に出てみたり、楽しそうな遊びに誘ってみたり、他のお友だちの遊びの中に入ってみたりと、色々なことを試しながら、その子の気持ちが落ち着く場所を見つけていくのです。
この「探る」という子どもへの関わりは、新人・ベテランを問わず、すべての保育者が経験していることです。保護者の皆さんも、きっと同じような経験があるのではないでしょうか。
この「探る」プロセスには、いくつか大切なポイントがあります。
1. 子どもの訴えをありのままに受け止める
子どもの声やジェスチャーにじっと耳を傾け、訴えをそのまま受け止めることから始めましょう。
2. スキンシップをしながら、気持ちを言葉にしてあげる
抱っこをしたり、優しく背中をさすったりしながら、子どもの気持ちを代弁するように言葉にしてあげます。例えば「ママがいいんだね、そうだね」と繰り返し伝え、相づちを打つことで、子どもの訴えに共感を示します。
3. 場所を変えたり、移動したりする
時には、環境を変えることで子どもの気持ちが切り替わることもあります。気分転換に散歩に出かけたり、別の部屋に移動したりするのも一つの方法です。
4. 大人の考えを一方的に押し付けない
「泣かないの」「もう大丈夫だよ」といった言葉は、子どもの気持ちを否定してしまうことがあります。まずは子どもの訴えをありのままに受け止め、「○○が、いいよね」のように、安心感を与える穏やかな語りかけが効果的です。
このような関わりの積み重ねによって、子どもと保育者の間に徐々に信頼関係が築かれ、子どもにとって心の安全基地ができてきます。心の安全基地ができると、子どもは保育者から離れても落ち着いて遊べるようになり、自分の世界を少しずつ広げていきます。そして、「自分で○○をやってみたい」という気持ちが芽生え始めるのです。
実は、保育者の重要な役割の一つは、この子どもの「やってみたい」気持ちを引き出すことにあります。子どもは「やってみたい」と感じたことを実際に体験し、そこから得られる驚きや感動によって、自ら学びを深めていきます。このような好循環は、保育者の温かい関わりが起点となって生まれます。子どもは、その体験をお友だちと共有することで、さらに「もっと知りたい」「もっとやってみたい」という意欲を高めていきます。これこそが、ヒトの学びの本質と言えるでしょう。
現代はAIが急速に進化し、私たちはAIと共生する時代を生きています。だからこそ、子どもたちの「やってみたい」という気持ち、内発的な動機付けを引き出す保育者の関わりは、ますます重要になると考えます。やってみたいをやってみる体験を積み重ねることこそが、AIにはないヒトの創造性の源泉となるからです。その意味で、子どもの思いに寄り添うことから「やってみたい」を引き出す保育者の力は、かけがえのないものと言えるでしょう。