子育てしているほとんどの親は、将来我が子を「思いやりのある子」に育ってほしいと願っていることと思います。しかし、「思いやり」を教えることは、思った以上に難しいものです。
例えば、子どもがお友だちの物を勝手に使ってしまった時、私たちはつい「それはダメ!」と注意しがちです。でも、本当に大切なのは、「ダメ」と教えることよりも、実は相手の気持ちに共感することかもしれません。
「思いやる」とは、相手の身になって考え、相手の気持ちを理解しようとすることです。例えば、公園でアリさんが歩いています。子どもは最初アリさんを追いかけていましたが、そのうち足で踏んでしまいました。
アリさんは苦しそうにしていましたが、子どもにはどうもそのアリの動きがおもしろかったらしく、さらに踏みつけていました。この場合、「アリさん、動かなくなったね。きっと痛いね。お家に帰れなくなっちゃったね」と、アリさんの状況を言葉で子どもに伝えてみましょう。
そうすることで、子どもは自分の行動が相手(アリ)にどんな影響を与えるのかを、より深く理解できるようになります。
私たちは、とかく子どもにモノの良し悪しを教えようとしますが、しかしそれ以前に相手の気持ちに寄り添うことを大切にすべきではないでしょうか。善悪は、状況や見方によって変わるものです。
大人と子ども、あるいは立場によって捉え方が異なることもあります。例えば、ご家庭では日々子どもの好みや健康状態を考えて、スーパーで食材を購入し、夕食をつくっているかと思います。子どもはそんな親の思いや気持ちは知りません。なので、平気で残したりします。
こんな時には「お母さん(お父さん)は、〇〇ちゃんのことを考えて作ったのだから、できる限り食べてみよう」と家族の誰かが言ってくれるといいですね。「全部食べるべき!」と教えるのではなく、お母さんの気持ちを想像し、共感する経験を積むことが大切なのです。
友だちとの関わりでも同じです。冒頭の、お友だちの物を取ってしまったり、または壊してしまった時、「やってはいけないこと」だと叱る前に、「○○ちゃんは、このおもちゃをとても大切にしていたんだよ。きっと悲しんでいるね」と伝えてみましょう。
そうすることで、子どもは自分の行動によって誰かを傷つけてしまったということに気づき、反省するきっかけになります。そういえば日本語の「もったいない」や「いただきます」という言葉も、モノへの慈しみから生まれた言葉です。
相手の気持ちを想像する経験を積み重ねることで、子どもは自然と「思いやり」という感情を育んでいきます。モノの良し悪しを教える前に、相手やモノへと心を寄せて、相手への想像力を基本にして、心の豊かさを獲得することを目指していきませんか。