早稲田大学 福島せんせいの保育メモ(1)

4月より、早稲田大学の福島先生が週に1回程度、保育に入っています。 日本語教育、複言語教育の専門家が観察した「幼児教育・保育」の視点をのぞいてみましょう。

4月(1)にじ組:2歳児

十分に言葉が使えない子どもたちとコミュニケーションをする中で、コミュニケーションの本質(ことばがなくても文脈で多くは伝わる)について考えるとともに、言語が発生する瞬間に立ち会っているという実感がありました。

ただ、初めての現場と大切なお子さんと触れ合ったこともあり、帰ってから猛烈に眠気が襲い2時間ほど寝入ってしまいました……。

4月(2)にじ組:2歳児

今週は、少しだけ子どものことばが聞き取れるようになったように思います。また、先生方のすばらしい教育的スキルに接することで、改めてこども園は教育機関であることを、実感しました。 先生方の子どもに対する時間の取り方(間合いも含む)、ことばの選び方、話し方、接し方、これにより認知、情動、社会性が成長する場が構成されていくのを見ました。たいへん勉強になりました。

私は、靴を履く場面であれば靴を履くことが目的、公園に行くなら移動することが目的となってしまい、子どもがグズグズしていると、焦ってしまうのですが、この点、先生方の落ち着きは子どもに安心感を与えるだろうと思いました。

5月(1)にじ組:2歳児

砂場で子どもたちが「ごっこ遊び」をしている現場に立ち会いました。子どもたちはレストランをしているのですが、そこでRちゃんが「です・ます」で対応し、「めしあがれ」と言っていたように思います。

日本語はバリエーションが多く、子どもたちは通常は普通体(「食べます」でなく「食べる」)を使います。敬語は、絵本の読み聞かせ、先生たちの発話からインプットはあっても、どうやって使うようになるのだろうと思いましたが、「ごっこ遊び」は、その一つの現場なんだなと思いました。

またその日、Jくんは、ご機嫌に遊んでいたのですが、砂場が楽しすぎて帰ってからぐずっていました。先生がまたきちんと時間をとり「まだ遊びたかったの?」と聞いたり抱きしめたりしていました。先生がきちんと注意を向けることで、子どもたちは自分の情動に向き合い、確認できるんだろうと思いました。

その時の彼の声は、悲しみやいらだちとは違った、慰められた心地よさからくる音声のようでした。

5月(2)ひかる組:1歳児

はじめての1歳児クラス、最初の印象は「整然としている」でしょうか。具体的には、朝の遊び→手洗い→着席→先生のお話→おやつは、2歳児クラスと同じ流れだったのですが、1歳児たちは私が想像していたよりも、いろいろなことがわかり、先生とのコミュニケーションも十分に取れていました。先生の指示が理解できているので、指示に従い整然とこのプロセスが進んでいたのです。

2歳児クラスでは、もっと遊びたい子どもや自分でやりたい子どもなどがいるからか、いろいろな場所でいろいろな停滞が起こりました。このグズグズに先生方はしっかりと教育的対応をされていました。一方で1歳児は、そこまで自我ができていないからか、先生の指示に従いすんなり席に座り、先生の歌を熱心に聞き、応答しているように見えました。思えば、今後も肥大し続ける自我が、人間を悩ますのかな、と改めて思いました。

5月(3)ひかる組:1歳児

今週おもしろいとおもったのが、こども園のしかけです。Yくんが、2歳クラスとの間にあるガラスの上のほうに貼ってあるシールを指差し教えてくれました。確かにブルドーザーの絵がなぜか貼ってあります。そのシールを二人でみていたら、Yくんは、その後、すたすたと絵本の本棚に行って、ブルドーザーの絵本を私に見せて、ガラスを指さしました。同じ絵でした。

さらに、しばらくして、別の場所で遊んでいたYくんが、ブルドーザーのおもちゃをもって、わたしのところに来て、ガラスを指さしました。
「あ、本当だ、ここにもブルドーザーがあるね」と反応しつつ、園の中には子どもの「注意」を引く仕掛けがいろいろあるなと思いました。また、部屋にはモビールのような展示物があり、これについても、こどもはしきりに関心を持ち、私に教えてくれました。

1歳児クラスには、複数の断面があるガラス玉がぶら下がっており、光の反射によりキラキラ光ります。また、扇風機にはひもが結んであり、風が吹く様子が視覚化されています。光や風など環境は、対象化(言語化)しにくいですが、そのような工夫によって、言語化する際の文脈化につながるなと思いました。

5月(4)ひかる組:1歳児

ホールで、2歳児クラスと合同になり、懐かしいメンバーと再開できてうれしかったです。1歳児を見ていると、2歳児は本当に「一歩先」を行っていると感じました。

今回の気付きは「数」です。2歳児クラスで、日付として数を毎日導入されていましたので、この年齢から数字が教育対象になっているのだと思いました。 そして、その日のホールでの遊びでは、(はっきりと活動内容を覚えていないのですが)1から10まで数えて走り始めるという活動でした。

その後、プラスチックボールを部屋にばらまいて、拾って先生が持っているかごに戻す活動もあり、先生によっては「1、2」と数えていらっしゃいました。

同じ数字ですが、カレンダーでは順番、10数えて走るのは時間、ボールは個数とまったく意味が異なります。これらいろいろな「数字」は、まずは具体的な事例から体験により理解されるのだなと思いました。

ただ、カレンダーや体重や身長、気温なども数字で表されますが、これらは体験から学ぶのが難しそうだなと感じます。長く(重く、暑く)なるという経験から、数字の増加を確認できますが、数字の体験が直接的ではないですよね……。これは認知的には少し先の発達になるのかな、とも思いました。すみません。思いつきです。

5月(5)そら組:3歳児

今週は3歳児クラスに入らせていただきましたが、情報量が多すぎて、頭がパンクしてしまいました。3歳児「そら」組に行ったと思っていたところ、「先生誰?」みたいに子どもが集まってきて、聞くと「かぜ」「たいよう」とのこと。

先週まで、1歳児クラスで日本語の最大のアウトプットが、Mちゃんの「これは(何)?」だったので、「ぼくは『そら』の一個上なんだけど……」のような高度な日本語に触れて混乱してしまいました。異なる年齢の子どもといっしょにいる時間と、別々になる時間があり、大変興味深かったです。一歩先をいくモデルが近くにいると、教師によるスキャフォールディングもやりやすいでしょうね。

外国語教育でも、レベル分けをあえてしないで、プロジェクトベースで、それぞれのレベルにあった学びを促す教授法もあります。考えてみれば、園の学びは常に「プロジェクトベース」ですね。

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