自分の子どもがまだ保育園に通っていた頃の出来事、たしか4歳ぐらいの時じゃないかと思います。
園から帰ってきて、子どもと一緒にお風呂に入っていたら、腕にケガをしていました。理由を聞いてみると……
「Aちゃんと遊んでいたら何にもしていないのに、ぶたれた」と話すのです。
「何もしてないのに、どうしてAちゃんはぶってきたの?」「知らない・・・、スケーターに乗ろうとしたら、ぶってきたんだよ!」
息子とこんな会話をしたので、次の日保育園の先生に聞いてみました。
すると、どうやらうちの子どもが、Aちゃんの遊んでいたスケーターに乗りたくて、無理に乗ろうとしたらしいのです・・・。だからAちゃんはうちの子の腕をつかんで止めたとのこと。腕が腫れたのはそのためです。その後は、大きなトラブルにもならずに子ども同士でお互いに話し合いをして解決していたので、特に親には伝えなかったと、先生は申し訳なさそうに話してくれました。
皆さんはどう思いますか?「親に嘘をついた子どもがいけない」というふうに思う方もいらっしゃるかもしれませんね。
そうではなく、ここで私が気づかされたのは、子どもは「自分の印象に残った出来事しか親に伝えられない」ということなのです。
つまり、この場面では「Aちゃんが乗っていたスケーターを無理に乗ろうとした」自分の行動はまるでなかったかのように、「友だちが腕をつかんだ」ことだけを伝えてくるのです。そこに嘘や悪意があるわけではなく、むしろ自分が注目し、記憶に残ったことだけを親や先生に伝えてきます。
実はこれは3歳~7歳ぐらいまでの発達の特徴で、幼児はある出来事を「自分の視点からしか見ることができない」と言われています。このことは、スイスの発達心理学者ピアジェが「自己中心性」という考え方で提唱しています。
小学生になってもう少し成長すると、相手の視点に立って考えることができるようになってきます。
こうしたことを踏まえて、ご家庭の皆さんにお伝えしたいのは次のことです。
もしも、園の先生から伝えられていないのに、家でケガや傷跡を見つけた時には、子どもの言うことに寄りそい、受け止めてあげつつも、大人として冷静な視点も持って対応してあげてほしいのです。
繰り返しになりますが、子どもは、悪意なく自分の印象に残ったことだけを親に伝えます。これは園生活の中でも同じです。そのため、園では一方の話を聞くのではなく、お互いの話や周りの友達からも状況を確認するようにしています。
家では子ども本人からしか話が聞けないので、例えば痛かったのであれば、「○○にぶたれた」とか「○○にぶつかった」と表現するしかないのです。その前後の脈絡や、「相手がどうしてそうしたのか」までは、まだ子ども自身の理解が及ばないため、詳しく伝えることはできません。
その結果、子どもの話は、ある一部分を切り取っただけになることが多いのです。心配なことがあったら、直接園の保育者に聞くのが一番かと思います。
今回は、子どもの自己中心性という発達の特徴についてお話ししました。子どもの気持ちに寄り添いつつも、話す内容には偏りがあることを知っていると、子どもへの関わり方も工夫ができるかもしれません。