子どもの成長や育ちを“足し算”で見ていますか?【園長の保育雑談】

たとえば子どもがそれまではおとなしくイスに座れていたのに、最近イスに座れないで部屋の中をフラフラしたり、あるいは自分の好きな場所からなかなか離れられなくなったとします。こうした子どもの姿をどう考えたらよいのでしょうか。以前は自分を抑制する力が育っていたのに、今はそれが退化してしまったと考えるべきでしょうか。

この件について、大妻女子大学の岡健先生は興味深いことを話しています。

「子どもの育ちは前にしか進みません。子どもが、以前にできていた何かができなくなったように見えるのであれば、それはそれまであった力が失われたり弱まったりしたからではなく、子どもの中で何かが育ったからと考えるべきです。そして、今できない何かをできるようになってほしいと思うのであれば、どういう力が身につけばそれができるようになるのかを考えるべきです。」

先ほどの例でいえば、「周りを見る力」がついて、部屋にあるおもしろいものに気づくようになったのかもしれません。あるいは自分の興味に気づき、「実際に行動する力」がついたからかもしれません。

こんなふうに話すと、「赤ちゃんがえり」について疑問に思う方がいらっしゃるかと思います。今まで自分で着替えられていたのに「手伝って!」と泣いたり、歩いて散歩できるのに「ベビカーにのる!」とダダをこねたりします。「赤ちゃんがえり」は、今まで普通にできていたことをしなくなり、泣いたりぐずったりしてまるで赤ちゃんに戻ったかのようにやらなくなってしまうことを言います。しかし一方で子どもが自立に向けて成長しようとするときに、「赤ちゃんがえり」は必要な体験だとも言われています。成長している段階にあるからこそ、時に不安になり泣いたり甘えたりして(発達の未熟な段階に後戻りして)、自分の存在を認めてくれる大人を必要とします。成長している過程では、その都度大人の愛情を確認することで心の安定をはかり、自分を守ろうとしているのです。決して子どもの育つ力が後退しているわけではありません。

ともあれ子どもが現す姿を、マイナス視点でとらえるかプラス視点でとらえるかで、印象は真逆になります。例えば「いろいろなものに気が散って、集中できない」という姿は、「たくさんのことに興味を感じている」とか「いろいろなことに目が向くようになっている」とも言い換えることができます。
このような見方の転換を、リフレーミングと言います。ある枠組み(フレーム)で捉えられている物事を、違う枠組みで再度捉えなおす、という意味です。子どもが現す姿を私たちがどう捉えるのか、特にプラス視点で見るにはリフレーミングするのはとても大切です。例えばこんな感じです。

「こだわりが強い」、「気持ちの切り替えが苦手」→「根気強く物事に取り組める」、「粘り強い面がある」
「ぼうっとしている」→「自分らしさを持っている」、「自分の世界をもっている」

子どものできないことや課題ばかりを見ようとしないで、今伸びようとしているところ、育とうとしている力をたくさん見(み)つけてあげることで、今育っている力をさらに伸ばしたり次に育てたい力を伸ばしたりすることができるようになります。ポジティブに見る視点を獲得し、子どもについて肯定的に見ることによって、子どものネガティブな面についても向き合って考えていけるようになるのです。

子どもの育ちを“足し算”でみること、保育者としてはもちろんのこと、親としても忘れてはならない大切な視点ですね。

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