先日、事務室にてお仕事をしておりますと、入口の方からズゴゴゴゴ…と音がします。年長たいよう組の担任と、園児I君がランチルームの机を運んできました。
見ると、本来ご飯を食べるはずの机に、黒の色えんぴつで立派な「作品」が描かれてしまっています。
神妙な顔つきのI君が「園長先生は、いますか…」と入ってきます。
主任が「みんなが使うテーブルに、落書きしてしまったんだね、それは良いことなのかな?」と聞くと、うつむいてしまいましたが悪いことをしたというのは十分に分かっているようでした。
意気消沈していて、なかなか自分から語り始めることができないI君。
そこで園長が「I君は、どうしたい?」と問いかけてみます。「(落書きを)消したい」とI君。
「じゃあ、どうやって消したらいいと思う?」と園長。
「うーん……」と悩むI君。なかなか良い解決策が浮かばない様子です。
ここで、たいよう組の担任が
「うちの子ども園にはお掃除の名人がいたよね?その人に聞いてみたらどうかな?」
いつも園内を清潔に保ってくれている用務のY先生に聞いてみよう、と提案しています。少し視点を変えつつ、子ども自身に考えて、行動させようという巧みな誘導でした。
さっそくY先生に聞きにいくと、「うーん、どうしたらいいかな?」と悩む様子。その時、I君がひらめきます。
「あっ、消しゴムで消せばいいんじゃないかな?」
思い出したかのように事務室に引き返し、「消しゴムはありますか?」とI君。今度は自分でしっかりと聞くことができています。早速、落書きを一生懸命に消しゴムでこすると、机はすっかり元通りになりました。
I君は、もともと「えんぴつで書いたものは、消しゴムで消せる」ということを知っていたのでしょう。
ただ、ほんのイタズラ心でした落書きが「何やら大ごとになってしまったぞ」という感情や、「怒られてしまった」という落胆などで、すぐには解決策を導けなかったのだと思います。
担任の対応としては、それを頭ごなしに叱ったり、すぐに答えを示すのではなく、「どうしたらいいだろう?」と子ども自身に問いかけて考えさせる、という意図があったのでしょう。
彼は、いったん気持ちを落ち着かせて立て直し、落書きを消すことを「自分事」として向き合うことができ、自らの力で答えを導き出せたのではないでしょうか。
落書きを消すという一点については、大人が強制しようが、子どもの自発性を誘導しようが、その結果は同じです。
しかし「大人からそれを言われて従う」のと、「自ら気が付いて自分で解決しようとしてみる」とでは、かなり意味が異なる行動です。
ほんの小さな一歩かもしれませんが、とても立派な「自立心の芽生え」と思いました。同時に、それを引き出した担任の姿勢に感心した一幕でした。(事務兼保育士・伊藤)