先日、明和政子先生(認知発達科学・京大大学院教授)のオンライン研修を受けました。タイトルは「コロナ禍の人の育ち」です。こんなことを話していました。
国の専門家会議により「新しい生活様式」(1、他者と身体的な距離をとる、2、3密(密閉、密集、密接)を避ける、3、会話は真正面を避け、マスクを着用する)が提案されました。これは人類がこれまで経験したことがない未曽有の事態だと言います。その上で保育・子育てと「新しい生活様式」は両立するのか? と問うていました。
まず重要なことは、「ヒトは、他者との身体的な接触なしには生存できない」ということです。ヒトは、他者との「密・接触」を基本とする社会的な環境の中で生存、進化してきた生物だと言います。生物としてのヒトの育ちには、以下のことが大前提になっているとのことでした。
- ヒトを含む哺乳類動物は、他者(養育者)との身体接触なしには生存できない
- 乳幼児期の脳の発達には、他者との身体接触という経験が不可欠
- 乳幼児期の環境経験は、その後の脳と心の発達に直接的に影響する
大人とは異なる「発展途上」の脳を持つ子どもにとっては、リアルではないコミュニケーションによる弊害は無視できません。特に、他者との身体接触なしに「視覚情報」だけに頼るのは危険だと警鐘を鳴らしています。(けして「子どもにテレビやYOUTUBEを見せるな」と言っているわけではありません!リアルなコミュニケーションが乏しい中で、こうした視覚情報に頼り切ってしまうことの危険性を論じていました。)
そして、コロナ禍の現状の中で、ヒトの脳と心の発達にとって望ましい環境を次のように提案しています。
- 感染リスクを最小限に抑えながらも「できる範囲で」他者との身体接触を経験できるよう工夫していく
- 密を避けつつ、それぞれの子どもにとって「安心できる特定の他者」とつながることのできる機会を保障する
この話を受けて、コロナ禍においても私たちの園で大切にすることを、改めて考え、以下の三つにまとめてみました。これ以外に現状での取り組み、例えば不特定多数の人がよく触れる場所、おもちゃの消毒は引き続きやっていきます。
1、子どもが思い思いに遊べるよう環境を充実させること
一斉に集団で行動するのではなく、子どもに活動を選択してもらい、思い思いに自由に遊べる環境を保障すること。これは子どもがいろいろな場所へ散らばるので、結果的に密が避けられます。子どもが好きな遊びで好きな友達と遊ぶことは、様々な興味を引き出し、友達と関わる力を育んでいきます。
2、子どもの気づきを引き出す対話的な保育の実現
子どもの気づきに「不思議だね!」「どうすればいいかな?」など、代弁したり問いかけたりする直接的なコミュニケーションが、子どもの探求心や好奇心を育みます。
3、大人が子どもの「心の安全基地」になること
子どもは相手の声や表情、動作を見て、マネしていくことで、共感する心を育んでいきます。子どもが求めてきた時に、大人が穏やかに応答する関わりが子どもの心の成長の基盤となり、自分肯定感を育みます。子どもが求めていないことを、無理にさせたりするのは控えるべきです。
コロナ禍の中とはいえ、子どもの成長を止めるわけにはいきません。保護者の皆さまは心配になる点も多いかと思いますが、本園では引き続きできる範囲で3密を避けながら、子どもたちの心身の発達をしっかりと考えていきたいと思います。