保育士の何気ないスゴいかかわり

今年度の前半、早稲田大学大学院の「言葉の専門家」(言語政策,市民性教育,海外の日本語教育)である福島青史先生(たまたま園長と苗字が同じなのですが、特に親戚というわけではありません)が、すべてのクラスの保育に入っています。

福島先生が先日のコラムで書いて下さったように、うちの保育士の子どもへの関わり方について、とても肯定的にとらえていただいているようです。
また、その中でも特に良い点として、子どもの言葉とコミュニケーショスキルを発展させるような、望ましい関わりがたくさん見られる、と挙げてもらったので、今回はこれを紹介したいと思います。

1、子どもの興味や関心に注目し、分かち合っている

子どもの目線に立ち、子どもの興味があるものに注意を払い、一緒になって楽しもうとする姿勢を指します。

2、子どもの発信に応答し、対応する

子どもの発信にしっかりと向き合って対応する保育者の姿勢が、自分の気持ちが理解され尊重されたと感
じ、子どもに安心感を与えます。

1と2について、例えば、福島先生がにじ組(2歳児クラス)の散歩に同行した時のこと。帰り道Aちゃんが、道路わきの生垣で何かを見つけ、指さしをして立ち止まりました。
散歩は、道路上で誰かが止まってしまうと、子どもたちみんなが先へ進めなくなり、困ってしまいます。福島先生は、「ここは道路で危ないから、帰るよ」と声をかけました。しかしAちゃんは、一向に動きません。

そこにE先生が来て、指さしをしている方向をみて、「○○だね、あれは園にもあるよ。でも、あれももらって園に持って行こう」と話したら、Aちゃんは、納得したようで、歩きはじめました。
この場面での保育者の対応は、まさに「保育者が、子どもの興味や関心に注目し、分かち合っている」、「子どもの発信に応答し、対応する」に当てはまります。こうした対応が、子どもの興味の世界を広げ、感情を調整する力を育んでいると言えるかもしれません。

3、子どもが話した言葉を拡張する

これは、子どもが言ったことを繰り返したり、さらに単語を追加したりするなどして、言葉の世界を広げていることです。
例えば赤ちゃんの頃から”指差し“が始まります。「バス!」と言って指差しをすれば、「バス、大きいね」とか「バス、はやいね」と保育者が対応します。バスの大きさや速さ、状態などを追加することで、子どもの言葉の世界を広げています。

4、子どもとの会話、やり取りを大事にする

例えばたいよう組(5歳児クラス)の子どもたちが、お誕生会の出し物について話し合う場面があり、そこに福島先生も参加されていました。
どんな出し物がよいのか、子どもたちから意見聴取を行っていました。「得意なことをやればいい」、「劇をやりたい」など意見が出ますが、保育者がお誕生会までのタイムスケジュールをカレンダーを見せながら子どもたちに示し、この期間内でできることを考えてもらっていました。

また議論がそれないように、保育者は決まったことをホワイトボードに書いて、子どもたちに理解しやすいように工夫していました。
大切なのは、安易にじゃんけんや多数決で決めるのではなく、子どもたちから意見を表出させて、物事を進めていることです。誰一人取りこぼさずに、子どもたちみんなが納得できるように議論を進めることによって、合意形成を図っていました。

自分と違った相手の意見や考えを聴きながら、納得のいくように話を進めていく体験は、この時期とても大切になります。詳細は今月号に秋山先生が書いていますので、ぜひご覧ください。
いずれにしても、以上のような保育者の関わりは、子どものコミュニケーション力はもちろんのこと、気持ちの調整や共感する力、考える力など、幅広く子どもの成長を支えており、保育者の教育的な意味・役割は非常に大きいとのことでした。

また最後にこんなことも言っておられました。「わかくさでの見学で印象的だったのは、子どもに呼応する先生方の専門的なスキルです。子どもに先生方が呼応し、さらにそれに子どもが反応する。この瞬間が『子どもの意識に心や世界が生じる瞬間』のように見えました。このスキルは、頭でわかってもなかなか実行できないと思います」。
こうした言葉を励みに、引き続き子どもたちをしっかりと支えていこうと思います。

なお、今回の話のベースになっているのは、イギリスの幼児教育専門家であるフリス・ジェームスが提唱する、「“ShREC”アプローチ」という、子どもの言葉とコミュニケーションスキルを発展させるための根本となる4つの原理です。
このアプローチを通して、子どもの発達がサポートされ、質の高い対話が実現されると考えられています。
(“ShREC” approachに関心のある方は以下を参考にしてください)
https://educationendowmentfoundation.org.uk/news/the-shrec-approach-four-evidence-informed-strategies-to-promote-high-quality-interactions-with-young-children

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